2012年10月15日
SKY短歌教室
10月例会作品
膝まづく頭に数珠を置きくれてあじゃりの姿足早に消ゆ
窓の際こちらを向きてゆっくりと頭おとして野良猫行けり
つくばいの水にはばたく雀見て首を伸ばして猫は近づく
八月の薄暮の空をゆっくりと鴉が一羽御陵の森へ
送り火をひとり焚きいる隣り家の寡婦の後姿火影に浮かぶ
薄紅に芙蓉の花の色変える木陰に果てし蝉の静けさ
変わりたる施設の母の窓に立ち迫れる緑に先行き思う
ひっぱれど動くものかとふんばれる四肢の力に語らぬ犬は
すたすたと先行く背中は言っている追ってきてよと強情っぱりは
柿若葉蛍一つをとまらせて暮色の中に光り遊ばす
晴れ間ぬい草刈り機の音おちこちに雑草の香むせぶ梅雨くもり
刈り終えし草の香たてるテラスにて郭公の声勢いて聞こゆ
生れしより禍は少なくて夢多き日日を過ごせる私の昭和
平成に入りて暗転この十年夢叶わずも寿命は延びる
畏れなく日々命食す我なるに紫陽花の根を断つをためらう
朝まだき街に親ザル子ザル皆雨の中屋根横切る一団のサル
渓流に冷えきった脚 温泉のじんわじんわとほどきゆくなり
期待せし夕立すげなく通り過ぐ湿りし土より蒸し返す熱
寝苦しき暑さ押しやりひいやりと肌をなでゆく朝方の風
枝先にすがりてゆるるとんぼ哀れ稲妻落雷激しき雨に
庭に敷くマット揚げれば隠れいしとかげさ走る石のあいまに
ただよえる黄の蝶ひとつ珍らしやまなこを逸らす一瞬に消ゆ
梅雨雲のおおう夕暮れうぐいすのしき啼く声のさやに清けし
何事も一日延ばしの毎日にいらだち深夜トイレを磨く
縦横に目白鳴き合う葉桜のかそけき動き良き日にあらん
雨粒を蛍と見まごう疎水べり愛犬と歩む一日の終わり
この話誰に聞きしや伝えしや巡りの面をくるくる回す
孫五人持ちたる友は八月を順次に埋めて日日燦燦
お母さん、一緒にケーキ作ろうと声の明るし土曜の朝
娘と語る美術館そばのカフェテラス二十歳のころの夢叶いおり
君の道信じて進め外面には吾も故郷も見守りており
燕ののみどの色をたしかめん天竜寺本堂の梁を見上げる
鳴きたつる餌待つ雛の幾羽なる親つばめの二羽空を行きかう
雨の道の消えつ浮かびつ街灯の光散りぼう台風の夜
ひぐらしの気づく気づかぬ声に鳴く居座る酷暑に秋兆しそむ
ライトカバーに迷い入りたるは虻ならん出るに出られず高鳴る羽音
ぱたぱたと変わりゆく番号眺めおりナンバーリングされ受診し薬局へ
海陸の鎮魂祈りて堤防を上がれば鉄柵のひん曲げられて
黄旗立てもいちどここに住みたいと願う漁師の魂うべなう
残骸の取り除かれし庭先に陽を受けて咲く水仙の群れ
雨しずくに三室戸の山はアジサイのブルーに海のごとく波立つ
「使うもの」「使わないもの」選り分ける「使うかも」なき娘の潔さ
ブックオフにて求めし歌集に「謹呈」と文添えられし真新しきまま
色のなき庭の片すみ姫檜扇朱の花鮮やかに扇を開く
水ほしと必死の叫び聞こえそう項垂れしピンク昼の紫陽花
友と行く水無月竹膳すずしげに籠の器に初夏を盛られて